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世界の視力 (順天堂大学眼科 平塚義宗先生の論文から引用)    

2022年02月22日


視覚障害の定義

 日本では最高矯正視力を視力としていますが残念ながら設備等の事情から世界全体に日本と同様の条件で視力の統計はだせません。
 世界標準で定められた視覚障害の定義は存在しませんが,一般に(失明(盲):blindness)
と「低視力:low Vision」に分類されています。「失明」は全盲(光覚なし)のみを指すのではなく,良い方の眼の視力で0.05未満(WHO基準),または0.1以下(米国基準)が標準的に用いられています。「低視力」は良い方の眼の視力で0.05~0.3未満(WHO基準),0.1を超えるが0.5未満(米国基準)と定義されています。現在,「低視力」は「中等度もしくは重度の視覚障害とも表現されています。そして「視覚障害」はこの「失明」と「低視力」の両者を合わせたものをいいます。また,現在,「良い方の眼の視力」の定義は従来の最高矯正視力ではなく,「現視力」,つまり,日常的に使用している眼鏡やコンタクトレンズによる屈折矯正の視力という定義が使われるようになってきています。

世界の視覚障害の変遷と現況

 失明が世界的な問題であると認識されWHOがStudy Group Meetingを初めて開催したのが1972年です.当時の断片的なデータでは世界の失明者数はおおよそ1,500万人程度と考えちれていたましたが,視覚障害に対する予防と治療の優先順位を検討するうえで信頼できる最新データの収集が課題となっていました.その後,世界に向けて最初に発信された視覚障害統計が1995年のThyleforsらによるもので、推定では1990年の時点で世界には3,800万人の失明者と1億1,000万人の低視力者が存在するとされ,世界の視覚障害問題が国際的に大きく注目されることとなりました。結果,Vision2020という,2020年までに回避可能な失明をなくすことを目的とした全世界的指針が1999年2月18日,WHOから出されました.当時,世界の失明の46%が白内障,13%がトラコーマ,3%が小児失明,1%がオンコセルカ症によるものであり,これらによる回避可能な失明を減少させることが目的でした.その9年後,Resnikoffらによる2002年における推定では3,700万人の失明者と1億2,400万人の低視力者が存在するとされました。
その後,途上国におけるuncorrected refractive error(未矯正の屈折異常)による視覚障害の問題が国際的に重要視されるようになりました。先進国とは違い途上国では誰もが適切な屈折矯正手段にアクセスできるわけではなく,矯正がされていなかったり,不十分な場合も多いことはよくしられています。

そこで前述のとおりWHOでは従来の最高矯正視力ではなく,現視力による評価を行うこととしました。つまり,ここで視覚障害の定義は大きく変更となってしまいました。定義変更後の2008年にResnikoffらによって報告された現視力評価での屈折異常による視覚障害も含めた推測では,2004年において4,500万人の失明者と2億6,900万人の低視力者が存在し,視覚障害者の総数は3億1,400万人と大幅に増加することとなりました。その後,2012年にPascoliniらによって報告された2010年の見積もりは3,900万人の失明者と2億4,600万人の低視力者の合計2億8,500万人で視覚障害者数は減少に転じました。98か国,約290の研究をもとに推計した最新の検討では,2015年時点の失明者は3,600万人であり,低視力者は2億1,660万人の合計2億5,260万人とさらに減少傾向となっています。つまり,過去25年間の世界における視覚障害対策の成果により,視覚障害者数とその人口割合は減少してきたといえます。しかしながら,今後この数は大きく増加すると予測されています。その理由は世界人口の高齢化にあります。
世界的な死亡率の低下に伴う平均寿命の延伸により,視覚障害対策関連の予算を拡大し治療法などを改善しない限り,視覚障害者数は今後数十年で急増し,2050年には失明者は3倍の1億1,460万人に,低視力者は2.5倍の5億5,000万人に増えると予測されてます。

 現在,全世界における失明と低視力のそれぞれの有病割合は0.5%と3.0%です。大きな地域差があり,失明はオーストラリアの0.2%から南アジアの0,7%まで,低視力は南サハラ以南のアフリカの1.6%から東アジアの3・7%までの開きが存在します。
失明の86%と低視力の80%は50歳以上であり,どの年齢層においても男性より女性が多くなっています。

 視覚障害の原因疾患は,トラコーマやオンコセルカ症などの感染症の有病割合は,過去25年間で大幅に減少し,現在世界における低視力の最大の原因は,未矯正の屈折異常であり全体の52%を占めています。続いて,白内障25%,加齢黄斑変性4%,緑内障2%,糖尿病網膜症1%となってます。一方,失明の最大原因はいまだ白内障であり35%を占め,未矯正の屈折異常20%,緑内障8%が続きます。視覚障害全体では,未矯正の屈折異常,白内障の順に両者で全体の3/4を占めるています。小児の視力障害者数は推定1,900万人であり,このうち,1,200万人は屈折異常によるものとなっているます。また,約140万人は失明しており,視機能の最適化と障害軽減のために視力リハビリテーションサービスへのアクセスが必要とされてます。最大の問題点は,世界における視覚障害の80%は本来なら,予防や治療などにより回避可能ということであるということにあります。