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お知らせ

成人の眼鏡

2023年05月18日


成人の眼鏡の目的は小児の眼鏡とは異なり,視機能の発達ではなく,視機能の維持,症状の軽減が目的となります。すなわち,

1)屈折異常による視力障害があるとき

2)調節力の低下により希望する位置に焦点をあわせられないとき

3)羞明などの症状があるときの症状軽減の目的などで利用されます。

これらの因子が単独ではなく重なり合う場合も多く,装用者側の背景,作業環境,希望も多岐にわたるため,装用者の希望をよく確認し,十分な装用テストが必要です。

 

1.処方までの流れのポイント

 

1)完全矯正を行うことが第一歩

調節が緩解されているときの眼屈折度を他覚的方法で求め,これをもとに最良矯正視力を得る眼鏡レンズ屈折力を決定します。特に調節力がまだ十分ある20歳代で,VDT作業などの近見作業に従事している人は注意が必要です。作業後の来院で他覚的屈折検査や自覚的屈折検査で値(球面,円柱屈折値,円柱軸度)が変動する場合や矯正視力値が不安定な場合には,作業がないときに再来院してもらい,もう一度検査をやりなおすことが望ましいと思われます。

2)調節異常が疑われたら

再検査を行い,調節異常が疑われたら,調節麻痺を点眼薬でおこなってから屈折検査を行うことが望ましいとされています。ただ,調節麻痺薬の効果が数時間の間残存するため,車で来院した人や多忙な人には行いにくいことが多いことがあります。しかし,調節異常が強く疑われる場合には,十分説明のうえ,調節麻痺を薬で行って屈折検査を行うことが必要です。調節麻痺薬としては,シクロペントレート(サイプレジン)が望ましいと考えられます。散瞳薬として用いられるトロピカミド(ミドリンM,ミドリンP)では,調節麻痺効果が不安定で,散瞳状態と調節麻痺効果とが平行しないので,散瞳していても調節麻痺効果が低下していない場合もあります。調節力がまだ十分大きい20歳代では,あくまで参考にとどめた方がよろしいでしょう。

3)調節緩解の方法一雲霧法とは

他覚的屈折検査で得られた値より2~3Dプラス側の検査レンズを装用して30分~1時間

に両眼開放下で,他眼は雲霧したままで,一眼レンズをマイナス側に変えていきます。このとき凸ンズの場合には,次の凸レンズを枠に挿入後,前のレンズをとるようにする点がポイントです。(雲霧を持続させるため)。自然視に近い状態で行う良い方法ですが,十分時間をかける必要があり忙しい現代人には検査をしにくいことがあります。

4)成人の眼鏡矯正の注意点一特に調節力について

明視域の範囲は調節力の大小が大きく関与します。調節力は10歳では13D程度あったものが,齢とともに直線的に低下していきます。特に遠視では調節力の減少による近見障害が早期から起こりすいので注意が必要です。眼鏡処方を仮に20歳代(調節力の目安は10D程度以下),30歳代(6D程度以下),40歳代(5D程度以下),50歳以上(2D程度以下)に分けて考えてみることが必要です。

 

①20歳代の眼鏡処方と注意点

この時期は進学,就職の時期でもあります。最近ではIT化の進展とともに以前にも増して,常に近見作業を強いられることが多くなっています。そのため,作業後の来院時には調節緊張が持続している可能性が高いことが考えられ、検査時の調節緩解が重要となります。この年代は,調節力が比較的よく保たれ,順応性がある点が特徴です。そのため,眼鏡処方後のクレームもあまりありませんが,不適切な眼鏡(特に過矯正)であっても装用できてしまう時期でもあります。過矯正眼鏡を装用してきた方の中には,過矯正眼鏡の方が良く見えると答え,これを好む方さえいます。しかし,不適切な眼鏡の使用を許すと,その時点では良くても,数年後に,頑固な眼精疲労,ときに頭痛,吐き気といった症状を訴え難渋することがあります。この場合には,過矯正眼鏡のもたらす症状を説明したうえで,なぜ過矯正が良くないかを十分説明し,過矯正眼鏡の使用はしないよう説得しなければなりません。

 

②30歳代の眼鏡処方と注意点

前年代に比べ,調節力は低下してきており,このことに起因する眼精疲労や読書時のかすみを主訴に受診することが多くなります。この年代では,遠視の方はまだ裸眼の遠見視力が良いことが多く,眼鏡の常用に難色を示すことが多くあります。遠視矯正用の単焦点レンズ装用で愁訴が消えるため,装用テストを十分行い,本人に装用により症状が軽快することを自覚していただき十分納得してもらうことが必要です。

この年代後半で,例えば運転免許の更新をきっかけに初めて近視矯正眼鏡を装用する場合には,装用により近見障害が生じる可能性があることを説明しなくてはいけません。生活習慣により,運転時のみの装用もしくは,運転時専用眼鏡と常用眼鏡に分けた方が良い場合もあります。

③40歳代の眼鏡処方と注意点

調節力が低下し,明視域が狭くなるため,特に近見障害を自覚するようになる時期です。裸眼もしくは単焦点レンズを用いたこれまでの遠用眼鏡では近方視が困難になったとの訴えで来院することも多くなります。製図や検品作業など作業中の視距離が大きく変化しない場合には明視域が作業距離を十分包含できるような作業用の単焦点レンズ眼鏡を第一選択とします.例えば,最大で眼前25cmを明視したいという正視の方がいるとする・調節力が3Dなら+1Dの眼鏡装用で希望を満たすことがでます。この場合,裸眼と眼鏡装用下で明視範囲は重複しており両者の使い分けはうまくいくことが多くあります。包含できない場合には累進屈折カレンズが適応となります。初めての累進屈折カレンズ眼鏡でも,加入度数が1D程度であれば,さほどの不快感を感じずに装用できる場合が多くあります。

④50歳以上の眼鏡処方と注意点

見かけの調節力で多少の自覚的な明視域は存在するものの,調節力はほぼ失われつつあります(特に後半)。そのため,単焦点レンズ眼鏡では,希望する視距離に応じた複数の眼鏡をもつ必要があります。単焦点眼鏡で,眼前25cmまでを明視しようとすると,三つの眼鏡が必要なことになります。長時間にわたり視距離がほぼ一定の近見作業(読書,編み物など)をする場合には,視界が広くひずみがなく見える単焦点レンズ眼鏡が適しています。

しかし,調節力が小さいため,より近くを見ることを希望するほど明視範囲が狭くなってしまいます。したがって,日常生活で常用する場合には,掛け替えることなく遠近が明視できる二重焦点レンズまたは累進屈折カレンズ眼鏡が望ましいことになります。二重焦点レンズでは遠用,近用部の視界は広いという利点の反面,境界でプリズム作用のため像がジャンプし(エグゼクティブ型では垂直方向のジャンプは避けられています),見かけが悪い,調節力が小さい人では明視できない距離の範囲ができてしまうという欠点があります。累進屈折カレンズは外観が良く,屈折力が徐々に変化するため二重焦点レンズのような明視できないところが途中に存在することがないという長所の反面,遠用部と近用部のある範囲以外,特にレンズ側方で収差が大きくなることから像がひずむこと,さらにひずみは加入度数が大きいほど著しくなるという短所があります。外観の点から,後者を選ぶ方が多くいます。累進屈折カレンズ眼鏡を処方する場合,患者さまのこれまでの装用歴や使用環境をよく聞いて,動的な活動が多い場合(例えばゴルフに使う),加入度を低めにしてソフト設計のレンズが,高齢者で静的な生活が多い場合には加入度が大きく近用部が広いハード設計のレンズが望ましいとおもわれます。さらに,使用目的により,遠用重視,中近重視,近用重視,遠中近バランス型などから選択します。

 

2.特別な場合

l)不同視の場合

通常,2D以上の屈折度差があると,不等像のため眼鏡装用ができない場合が多く存在します。両眼視のための不等像視の限界は4~7%とされています。この場合,装用可能な状態まで左右差を減らすほかに,一眼を遠用,他眼を近用とするようにすると老視年代の人は満足する場合が多くあります。例えば,近視の弱い方を遠用,強い方を近用とすることで結果的に装用する眼鏡レンズ屈折力の左右差を少なくすることになります。このとき,優位眼を遠用として処方しないと苦情がくる場合があります。また,このような処方をしたときには,立体視が損なわれる点の説明が必要となります。若い頃より,左右差のある眼鏡に慣れている場合には2D以上の差でも装用可能な場合がほとんどです。

2)乱視の程度が強く,左右差がある場合や軸方向が異なる場合

この場合網膜像が左右で異なり,融像がむずかしくなります。さらに,レンズ中心以外の部分を使用して見るとき,プリズム効果の差から融像できず,複視が生じることがあります。特に,垂直方向で左右の屈折度が異なる場合,垂直方向の融像能が左右に比べ低いため違和感が強くでます。このような処方をする場合,眼鏡使用時に横目で見ることはせずに,顔をその方向に向けることでレンズ中心を使うよう心がけるように指導することが重要です。