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お知らせ

近視の進行予防の検討

2021年11月11日


新生児から成人になるまで眼球はしだい発育していきます。眼球に画像としての光が角膜、水晶体をとうり眼底に焦点が合いものを見ることができます。小児の近視の進行は近くのものを長時間みているために調節機能の障害がおき一過性に近視となる調節緊張と呼ばれる焦点が網膜より前に偏位する状態になる場合があります。しかしこの状態はあくまで一時的な状態であり成人に至るまでの近視の変化は角膜から眼底までの長さ〔眼軸長といいます)が伸びることが近視が進む本質的な原因であることが研究の結果わかってきています。さらに調査の結果小児期の近視の進行の要素として1、遺伝の影響2、生活している環境(都市部で進行が早い)3、近方視の時間(長時間の近方視で進行しやすくなる)4、屋外で活動する時間(屋外での活動時間が長いほど進行しにくい)5、学歴(学歴が高いほど勉強する時間が長く近方の作業時間が多いことに関係している)などが関与していると報告されています。

遺伝に関しては両親が近視の子供は両親が近視でない子供に比べると近視になる可能性が8倍も高くなることや片親のみが近視の子供は両親が近視でない子供にくらべて2倍も近視になる可能性があるという報告もされています。屋外活動による近視の予防効果は実は調節力の緩和のみによるものではなく太陽光線を浴びることによりドーパミン分泌が増加することや縮瞳により眼底に写る画像の収差が減少することにより網膜にうつる画像が鮮明になるため眼軸長の伸展が抑制された結果であると報告している論文もあります。

薬物による近視抑制効果(眼軸長伸展抑制効果も含む)が確認された方法はアトロピン点眼薬の点眼(現在販売はされていませんがピレンゼピン眼軟膏も有効です。ピレンゼピン眼軟膏はM1選択的ムスカリン受容体拮抗薬でありアトロピンと同様の作用で近視抑制効果があります)、累進屈折レンズの使用があります。アトロピン点眼薬はムスカリン受容体拮抗薬であり網膜、脈絡膜、強膜に分布しているムスカリン受容体に直接作用して眼軸の伸展を抑制すると研究の結果推測されています。(残念ながら長期間の研究はなされていないため推論の段階にあります)

その他の近視抑制方法として累進屈折レンズの使用があります。作用機序としては近くを見るときの網膜に投影される画像の焦点が網膜の後方へ行く現象を軽減して眼軸長の過伸展を抑制することにあります。ただ問題となる副作用がないかわり近視予防の効果を測定した結果ではわずかな効果しか期待できない結果がでています。

また近視用の眼鏡は低矯正がいいか完全矯正がいいかの話題はよく耳にしますが低矯正眼鏡を装用した群と完全矯正眼鏡を装用した群を比較して前者は近視進行や眼軸長の伸展が遅くなるとの報告が過去にあり近視用の眼鏡は低矯正がいいと考えられてきました。しかし2010年ころの研究では低矯正眼鏡の装用群で近視の進行や眼軸長の伸展が速くなる傾向が示された論文が発表されました。これらの結果を統合して統計処理をしても有意差が認められなかったとの報告もあります。少なくとも低矯正眼鏡を処方することは近視抑制効果は期待できないようです。最近では眼軸長の視覚制御機点のトリガー信号として近方視にみられる調節ラグとともに周辺部網膜における後方への焦点のずれの散在が注目されています。従来の単焦点矯正レンズが単純な屈折調整を目的にしていたのにたいし同時に周辺部網膜に屈折矯正を意図した眼鏡レンズが研究されており近視抑制効果目的の眼鏡が将来できることが期待されています。